2010.11.27
無防備地域宣言運動全国ネットワーク
1 朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の延坪島砲撃を糾弾する!
朝鮮は11月23日午後、中止を要求したにもかかわらず韓国軍が軍事演習を強行したことを理由として北方限界線(NLL)近くに位置する延坪島に対する砲撃を行った。砲撃には海岸砲(榴弾砲ないしカノン砲)、多連装ロケット弾が使用された模様で、発射数は170発におよび、そのうち約90発が軍事目標、民家等に着弾した。この砲撃より軍人2人、民間人2人の死亡を含む数十人の死傷者が出た。多くの住民が島から避難し、「国内難民」化した。韓国軍も反撃し(一時は空軍戦闘機まで出動したが、攻撃は行わなかった)、朝鮮側にも被害は出たものと思われる。南北間は交戦状態に陥っている。
私たちは、今回の朝鮮による延坪島砲撃を厳しく糾弾する。韓国軍が軍事演習を行ったことは批判されなければならないとしても、それに対して軍事施設のみならず住民(文民)、民家等にまで被害が及ぶような無差別砲撃を行ったことは到底許されることではない。命中精度の悪い多連装ロケット砲は、正確に建物や陣地などの目標を攻撃するのではなく、敵部隊の集結地や物資集積所など広い面を攻撃するのに用いられる。朝鮮側が住民・民用物に被害が及ぶことを回避する努力をしていないことは明白であり、ジュネーブ条約、「軍事目標主義」に違反している。
また、今回の攻撃により哨戒艦「天安」撃沈事件により一気に高まった南北の軍事的緊張を沈静化させるための一連の努力が水泡に帰してしまった。6カ国協議再開も遠のいたと推測される。また、朝鮮自身が求めていた米朝協議再開、休戦協定から平和協定への転換の道のりをも閉ざしてしまいかねない。朝鮮の軍事挑発は断じて認められない。
2 朝鮮の軍事挑発の背景にあるもの
ただ、今回の事態に際して私たちは朝鮮を非難、糾弾するだけでは済まない。朝鮮がなぜ延坪島砲撃という軍事挑発に出たのか、その背景・理由がどこにあるのかを見なければならない。
朝鮮は、今、経済復興を進め「強勢大国」を築いていくこと、金正日から金正恩への権力承継をスムーズに進めていくこと、この二つを大きな課題としている。
そのためには第一に、米国との関係改善と制裁の解除を図ることが必須不可欠である。ところがブッシュ政権末期(08年10月)に、「テロ支援国家」指定解除を行うところまで米朝関係は進展したにもかかわらず、オバマ政権に移行してから米朝間協議は停滞したままとなっている。08年10月時点では(ブッシュ政権時)、米朝間は「テロ支援国家」指定解除と引き換えに以下のことを合意していた−@北朝鮮は核計画申告の検証方法に合意、A検証はウラン濃縮と核拡散活動も対象、B相互の同意に基づいて未申告施設にも立ち入り可能、C北朝鮮は寧辺の核施設無能力化作業の再開を表明、D日本人拉致問題に取り組むことを強く要求。これらの事項が実行に移されていったならば、朝鮮の核問題は次の「第3段階」(北朝鮮の核放棄)をどう実現するかの局面に踏み込んでいくはずであった。
しかし、オバマ政権は朝鮮との協議を進めるために「北朝鮮特別代表」としてボズワースを任命、09年12月にはボズワースを訪朝させて姜錫柱第一次官と協議を行いながら、それ以降交渉は何ら進んでいない。それには上記の合意事項の中の@、Bなどをめぐり具体的な合意に踏み込めなかったことなどがあると推測されている。以降、オバマ政権は「戦略的忍耐」などと称して朝鮮との間の協議を中断、放置するという対応を続けてきた。そのツケが、朝鮮の新たな原子炉とウラン濃縮施設建設である。朝鮮は、わざわざ米国からロスアラモス国立研究所元所長のシグ・ヘッカー教授を招き、それを見学させた。慌てたオバマ政権は急遽、ボズワースを日中韓に送り6カ国協議を再開するか否かを協議させた。そして、その最中に朝鮮は今回の砲撃事件を引き起こしたのである。これは米朝協議−6カ国協議を早期に再開するようにとの朝鮮のシグナルであることは明白である。「戦略的忍耐」などというオバマの無策は許されない。
もう一つ、今回の朝鮮の延坪島砲撃の背景に李明博政権の対北強硬政策があったことも見ておかなければならない。「太陽政策」「包容政策」を採用し、南北首脳会談を実現した金大中、盧武鉉政権時代にはこのような軍事的攻撃は起らなかった、この事実を確認しておく必要がある。今回の事態について、李明博政権の「外交の失敗」であるという声は、韓国内に少なからず存在する。
いずれにせよ現在の準戦時ともいうべき状況を一日も早く終らせなければならない。「やられたらやり返す」「100倍、1000倍にして返す」などという言辞は南北とも直ちに止めるべきである。また、米韓は空母ジョージワシントンまで出動させて黄海で軍事演習を計画している(11.28〜12.1)。これに対し朝鮮は軍事的対応も辞さないと言い募っている。このような軍事演習も中止すべきである。
3 菅政権は緊張激化政策、人種主義的政策を止めよ!
日本では、今回の事態に際して、米国、韓国などが負うべき責任などに一切言及しないまま朝鮮を非難する報道が溢れている。菅政権は、朝鮮非難の声明を出すだけではなく、あろうことか朝鮮学校無償化の審査を停止すると言い出している。また、11.28〜12.1に予定されている米韓合同軍事演習について中止を求めるどころか、「不測の事態が起るやも知れぬので閣僚は都内にとどまれ」との“禁足令”を出して事態に対処したつもりになっている。愚かである。ひたすら日米同盟に縋り、東北アジアの平和体制をどう構築していくかについて何の構想も持たず、植民地主義に頭のてっぺんまで浸りきっている。「その都度起こる朝鮮半島の事態と生徒とは関係ない」(11.25朝鮮高級学校・全国校長会声明)。金正日と軍部が仕出かすことに朝鮮学校の生徒が何の責任を負わなければならないのか?人種主義、植民地主義の菅政権はそんな常識も弁えない。
菅政権は緊張激化に手を貸すな。朝鮮高校無償化を直ちに実行せよ。
4 6カ国協議−日朝、米朝協議を直ちに再開せよ!
事態を沈静化させ、平和を回復していく道は6カ国協議の再開、日朝、米朝協議の再開しかない。根本に核問題と休戦協定の平和協定への転換問題があることは明らかであるからだ。オバマ政権は早急に6カ国協議再開を決断しなければならない。また、菅政権は2002年9.17ピョンヤン宣言と2005年9月19日6カ国協議合意に基づき日朝交渉を促進していかなければならない。
私たちは、メディアの朝鮮非難大合唱を批判しつつ、核問題の解決と東北アジアの平和実現に向けて日本政府に問われていることを明らかにし、それお広く訴え、それを政策に反映させていく運動を強めていく必要がある。